6/03/2011

Blood, Sweat + Gears

2年前に米国Sundance Channelで放送された『Blood, Sweat + Gears』の日本公開を機に、雑感を書き散らしてみました。ネタバレ長文でお届けします。

  • ガーミンは当時プロコンチチームでしたが、決して小さい無名なチームではありませんでしたよ(苦笑)。まあ、映画でもDoug Ellis氏がチームのことを「The Little Engine that Could」と呼んでいたので、ダビデとゴリアテのダビデのように小さい、という解釈もできないではないですが。
  • アンチドーピング映画でもありません。というのは、実際のアンチドーピングプログラムに関する詳細はあまりなく、血液検査の場面がちらっとうつる程度なので。
  • タイトルは適切なようで核心を突いていないような。ブラッド=アンチドーピング、スウェット=努力、ひとひねりしてティアーズの代わりに自転車映画だからギアーズ、ということだと思うけど、この映画、涙無しには語れません。
  • 一方、この映画が見事捉えていると感じたのは、個人競技のように見えてあくまでもチーム競技であるロードレースにおける、管理側としてのチームと、雇われ側としての選手の関係。チームの犠牲になっていく選手、チームの軌道に上手く乗れず取り残される選手、チームの方向性と自分の調子がタイミングよく合って、栄光をつかむことができる選手などなど。
  • あと、ツールのスタートリストをワインを飲みながら多数決で選んでいる場面でフランスのレースだからフランス人を入れるべきという話がでたりとか、ツールに出場できないことを選手に伝えなければいけない場面とか、新スポンサー決定を報告する場面など、マネージメント側の言い分や見解が興味深かったです。
  • ミラーとヴァンデヴェルデファンには見所満載。ガーミンの核心的存在であるミラーの過去やアンチドーピングのスタンスなどが明らかにされています。彼のとんがった性格はありのまま描かれてます。でもそんなミラーがカタールでの大落車の後、落ち込んでいるディーンやバックステッドの横で大笑いしているのは、一見無神経にも見えますが、敏感な彼のこと、きっとチームリーダーとしてその場のムードを和らげようと努力しているのだと勝手に解釈することにしました。
  • ヴァンデヴェルデはアシストからエースに転身、自分のポテンシャルを自覚し、ようやく発揮できた瞬間が見事とらえられています。嬉し涙ものです。珍しくひどく落ち込んでものすごく暗く、無口な彼も写っています。でもやはりVdVらしいなと思うのは、「ポスタル時代行われた血液検査で、VdVはランスを上回る身体能力を持つという結果が出たが、ランスの自信喪失を懸念したスタッフが事実を隠していた」という話について、「そういう工作が行われたことに対して怒りを感じている?」と尋ねられたVdVが、「いや、当時は二位になっただけで凄いと思っていたし、今はどれだけ自信というものが大切かを理解できたから、そこまで気を使っていたことには感心しているよ。」と明るい表情で応えていたこと。前向きというかお人よしというか、とにかくいい人だ...。
  • フリッシュコーンもツール初出場でおしくもステージ優勝を逃した「勝ち組」の一人。でも今はまだ若いのに現役を退き、チームの管理側で活躍していることを思うと勝ち組でいいのかな、と少し考えさせられます。
  • チームとしてはツール出場という目標を達成し、VdVとしては総合4位という好成績を残したわけですが、バックステッド、フリードマン、ペイトのストーリーには涙涙。特にバックステッド。パリ・ルーベの優勝者が移籍してくる!と結構期待されてたのに、カタールでは鎖骨骨折、パリ・ルーベでは両輪破損というメカトラでリタイア、ツールでは「選手としては最悪の結果」のオーバータイムでリタイア。そして翌年2月には引退宣言。リクイガスの頃はCycling.tvにもよく出てきて、お馴染みの顔だったのに、ガーミンでは成績を残せないまま引退...。
  • 「なんでもっと積極的にならないんだろ、レース展開にも全く注意していないし、バカだなあいつ、折角の五輪出場のチャンスなのに。才能はあるんだけど、それを引き出すのに思ったより時間がかかって...」と監督にもEllis氏にもけなされっぱなしのフリードマン。でも今でもJVとはツイッターでよく話をしているので、フリードマンにとってのJVとは、「厳しかったけれど、お世話になったし、卒業後も慕っている先生」的な存在なのかも?その五輪出場は映画では少し分かりにくいのですが、結局選抜レースで勝つことができず、連盟の指名によって夢が叶ったのでした。
  • ペイトの奥さんのラーラさんはマッサーとして帯同。お互いレーサーそしてマッサーとしての生活のストレスによるギクシャクぶりがカメラに収まっているのが悲しすぎます。「自転車選手は必然的にナルシスト」というラーラさんの言葉が心に重く響き、結婚生活が上手続いている自転車選手とその配偶者の方々の努力は並大抵ではないんだろうなとこれまた感心することしきり。
  • Bonnie Fordさんの「今、自転車ファンが待望しているドリーム・チームとは、超一流の選手ばかりを集めたチームのことではなく、サイクリングを正しい方向に動 かすことへの夢を抱いているチーム」という言葉、そしてEllis氏の「サイクリングのこの時代を振り返ってみたとき、この時期にここにいた人々こそが、 サイクリングを立ち直らせた人達だということを認識するはずだ」という言葉。確かに今振り返ってみると、ハイロード、スカイといったプロチームの誕生、 BikePureのような組織やバイオロジカル・パスポートや内部テストへの感心が高まったことにも、時代の流れはあるとしても、スリップストリームが一 役買っていたことは否めないわけで、ツールに出場する可能性のあるチームが反ドーピングという旗を掲げたことは、それなりに大きな意味があったのだなあと 今更ではありますが思いました。
  • 自転車チームの運営は財務的にも難しく、自転車界そのものに危機が訪れていた時期に大赤字覚悟で資金提供したDoug Ellis氏にはただただ感謝。スポンサーとして救いの手を伸ばしてくれたガーミンにも。

 

その他:

  • たった3年しか経っていないのにこんな気持ちになるものだろうかと思うほど、とにかくすべてが懐かしい映画でした。ライトブルーとオレンジのジャージーの色使いとか、サウニエル色のミラーとか。全員がポール・スミスのスーツで登場したチームプレゼンとか。
  • ザブファンとしては大不満であります。ボルダーのプレゼンにちょこっとしか出てきません。でもジロで大怪我して、ツールにも出場できなかった年なので、ツールがメインの映画としては出しようがないというもの。ザブネタ的な映画でもないし。
  • コーザがバックステッドに「奥さんといつも離れてるのはどう?」とたずねている。このころからポディウム・ジェンさんとのおつきあいはあったのかしら。
  • きわどい脚剃りシーン。フリードマンらしいというか。
  • ペイトさん夫婦の破局の理由は実はあの短パンではないかとひそかに思ってます。

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