8/10/2006

War on Doping????

Sakiさんに教えていただいたWADA認定ラボの資料を読んでみました。本題とはあまり関係ないのですが、面白かったことから:

検査の対象となっている薬の表。ベルギーとパリではCannabinoids類に対してかなりの数の陽性反応がありますが、これって大麻ですよね。どうやって摂取するかは分かりませんが(やはり吸うのか)、反応とかも鈍くなりそうだし、スポーツには不向きなドラッグのように思えるのですが。痛み止めでしょうか。(この抄録によると、抗不安薬的な効果は認められるが、スポーツ補助的な作用はなく、かえってパフォーマンスを妨げる効果があるとか。)単にドラッグはいかん、ということかもしれません。

あと、こんなスポーツにも検査が!!! (陽性発見率)
ビリヤード(4.5%)、ブリッジ(0%)、チェス(1.85%)、救命(0.63%)、綱引き(1.10%)

突っ込みどころありすぎw。
*ビリヤードの陽性発見率はサイクリング並みに高い(WADAは今後、ビリヤード選手をばんばん検査してください)
*ブリッジは0%なのにチェスはどうして?(しかも陽性反応があったのは1件。誰だ??)
*救命…って、救命する人がドーピングしちゃいかんでしょうが
*綱引きが正式なスポーツとは初めて知りました

すいません。笑い事ではありませんでした。

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なぜ笑い事ではないかというと、実際、スポーツ以外でも、職場、学校などでも「職場ドーピング」「アカデミック・ドーピング」なる問題が存在するからです。

NPRのOn Pointという番組で、45分にわたるテストステロン特集がありました。

ゲストの一人は、テキサス大学オースティン校で教鞭をとるジョン・ホーバーマン教授。同氏はスポーツ界に限らず、米国の職場や大学にも浸透しつつあるドーピング問題について「テストステロン・ドリーム」という著作で綴っています。サイクリング界に関しては、「ドラッグ漬のスポーツだ」と非常に悲観的なのですが、実に興味深いコメントをされていました。手短にまとめると、

*選手達は自らの体を犠牲にまでして人体実験を行なっている。こうして得られた専門知識は、正式な医学論文や公衆衛生に関する声明などには反映されていない。

*テストステロンが気分を高める効果を持つ物質であるとことは、医学文献にも記述されている。あの速度で山を駆け上るための効果を得るには、長期間に渡るテストステロン摂取が必要だ。仮にランディスが使用したとすれば、気分を高騰させ、自信を高める効果を狙っていたのではないかと思える。

*ドーピング物質の使用はスポーツ界に限られない。ビジネスエグゼクティブ、警察官、大学生までがパフォーマンスを高めるためにドラッグに手を染めている。プロ選手のショッキングな行為ばかりが取り上げられるが、これは極少数のエリート選手に対する義憤を表すことの方が、50万人の警察官や500万人の大学生の間に広まっている薬物問題に取り組むより、はるかに安易な道だからでしかない。

*ツールなどの競技では、人体に過度なまでの要求がされる一方で、麻薬撲滅戦争から生まれ、ドーピング撲滅運動にも採用されている「Just Say NO」という価値観・精神が存在する。この二つは共存するべきだと考えられている。

(抜粋部分の英文はコメント欄に置いておきます。)

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一方、UCIのマクエード会長はドーピングに対して無条件の戦争を行なう時が来たと宣言しています。

問題の根源を突き止めるべく、世界中の専門家の援助の下で、プロフェッショナルサイクリング界の徹底調査を行なう。調査の対象となるのは、チームの組織構成、レース距離、イベントの日程作成、休養日の必要性などで、必要となれば、2008年シーズン施行を目標に規則・規制などの抜本的な見直し・改革を行なうそうです。

そうそう、選手だけを十字架にかけても意味がないんですよね。でもレースの距離を減らしたところで本当にドーピングに影響があるのでしょうか?だって、チェスですよ。オリンピックだって、四年に一度。しかも100メートルしか走らなくてもドーピング問題は付き纏うわけですしね。さらに付け加えるなら、レースやチームだけでなく、UCIやWADAにも調査範囲を広げてもらいたいものです。

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ふと思ったのですが、プロのスポーツ選手とドーピングの関係は、俳優と整形手術の関係に似ているのでは、と。自然のままでも仕事をこなせないことはないし、「性格俳優」として売っている人もいるわけです。しかも、うわべでは誰もが「自然のままがいい」という。ですが、メスを入れてもらった方がよりジューシーな役にありつける訳ですし、プロデューサーもキャスティング・ディレクターも監督も、自分のエージェントも、ひょっとしたら家族も「やったほうがいいよ」とプレッシャーをかける。メディアも綺麗になって売れれば、こぞって表紙にしたがるだろうし、金銭的な報酬も、名誉も全て手に入れることができる。ここを直せば自身がつくとか、ボトックス注射をちょっとするなら誰にも気づかれない、皆やっている、と自分でも正当化してみる。誰がやっているかはっきりとは分からないし、外部の人間には決してそんな話はしない。しかし、やっていることがバレれば、たちまちメディアには叩かれる。だんだんエスカレートして、マイケルジャクソンのようになれば、「だからハリウッドは」と業界全体が批判されるわけですよ。それまでは周りの皆が、整形手術した俳優のお陰で稼いでいたくせにね。学生や一般の社会人までが手を出しているというところまで似ていませんか。

アマチュアなら自分が心行くまでどこかの小さな劇団で演技を続けることができますが、プロは決してそうはいきません。サイクリングは紳士同士の競技という錯覚をおこしがちですが、元はといえばヨーロッパの主要レースは、どれも新聞の発行部数を上げるために考案された販促戦略でしかないのですね。当初は新聞を売るために、でも今はチームまたはレースのスポンサーのために、観客のために、メディアのために、チームのために、フランス観光局のために、そして最後に自分と自分の家族のために超人的な力を発揮することが求められてきた。こんなプレッシャーの下に置かれたら誰もが薬に手をだしたい、少しでも楽をしたいと思うかもしれません。一般人は自分が弱いから、自分ならきっと手を出してしまうから、それが普通だと思い、選手達だって皆やっているんだろうと考えるのではないでしょうか。プレッシャーに負けて普通。負けなければより超人的。自転車選手達は体力的な強さだけでなく、そうした超人的な精神力も持ち合わせていると信じたいです。(上に書いたことと矛盾しているかもしれませんが。)

1 件のコメント:

dido さんのコメント...

H: The athletes who either use these drugs on themselves or talk with fellow competitors who do... have developed a certain kind of expertise that is not going to be reflected in the public health statements that we get from physicians who know something about this...

I: Because they know it more intimately, they're a better judge of how much they can use, when to use it?

H: Well, some of them will be, and some of them think they're better judges, but they probably are better judges because most physicians don't experiment on themselves with anabolic hormones.
...
H: You can't overlook the extent to which this drug has been observed to be a mood enhancer in the medical literature which had no interest in pushing the drug on athletes or anybody else, which suggests to me that... you would have to spend a long time on testosterone or anabolic steroids to get the effect the sort of effect that would send a man up a mountain at that speed. It sounded to me more that what Floyd Landis might have gotten out of synthetic testosterone on his great day was precisely that mood elevation confers confidence and that can help him mobilize the resources that they got.
...
H: Because this an other practices fall under the heading of what I call "workplace doping." That if there are ways to use drugs, to boost productivity or effectiveness, whether you are a business executive or a police officer or a college student, there happens to be, although this has not been widely covered, there is an epidemic of stimulant use by American college students and college students in some other countries for the purpose of what you might call "academic doping."

I: Amphetamines or something else?

H: Basically amphetamines. This is ritalin and aderol. This is epidemic, they're being traded in dormitories.... The claim is that mental focus for the purpose of studying and scoring higher on the examinations that are going to get you into law school, medical school, and business school is boosted by the use of these prescription drugs.

I: So we claim to be shocked, shocked at the professional athletes, and you're saying, it's creeping into all corners of American life, and not just corners.

H: That is a phenomenon that we are going to have to deal with. And the phenomenon here is selective indignation. It is a lot easier to tackle a very small number of elite athletes in MLB than it is to embrace a real who knows the extent of which drug problems among 1/2 million police officers or 5 mil. college students.
...
H: Right now, we're kind of in an agonizing conflict caught between the really inhuman demands of the event ... and the War on Drugs value system that has now annexed the anti-steroid campaign in this country. And so the "Just Say NO" mentality is supposed to coexist with the inordinate demands on the human body.

H: Comments by John Hoberman on "On Point"
I: Interviewer